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福井地方裁判所武生支部 昭和53年(ワ)49号 判決

主文

一  被告は原告に対し、金五〇七万二三六三円及び内金四七二万二三六三円に対する昭和五三年四月四日から内金三五万円に対する昭和五三年八月四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担としその余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金八九六万五九七二円及びこれに対する昭和五三年四月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生及び態様

原告は昭和五三年四月三日午後八時一〇分ころ、普通乗用自動車(福井五五つ二二六六)を運転して、鯖江市有定町二丁目鯖江大橋東詰交差点手前で信号待ちのため鯖江市内方面に向けて一時停止中、酒に酔つた被告運転の普通乗用自動車(福井五五も八五〇八)に追突された。

2  原告の受傷内容及び程度

原告は右事故により外傷性頸椎症並びに腰椎捻挫の傷害を受け、事故当日から昭和五三年八月一八日まで一三八日間入院加療を要し、翌同年同月一九日から同年一二月末日までの間通院加療を必要とした。

3  被告の責任

本件事故は被告の酒酔による運転中止義務違反の過失によつて惹起されたものであるから、被告は本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

4  損害

(一) 治療費 金一五三万〇五七一円

(二) 入院雑費 金六万九〇〇〇円

一日金五〇〇円の割合による一三八日分

(三) 休業損害 金六三一万六四〇一円

原告はミシン編機等販売を業とし、一日平均金二万三一三七円の純利益を挙げていたところ、前記入院期間一三八日及び通院期間一三五日間合計二七三日間全く稼働することができず、頭書の得べかりし利益を喪失した。

(四) 慰藉料 金一〇五万円

(五) 弁護士費用 金一〇〇万円

5  損益相殺

自賠責保険より金一〇〇万円の賠償額の給付を受けた。

6  結論

よつて、原告は、被告に対し、損害額合計金九九六万五九七二円から前記損益相殺額金一〇〇万円を控除した金八九六万五九七二円とこれに対する本件不法行為の日の翌日である昭和五三年四月四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。但し、追突したのは信号が青に変つた直後である。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実中、本件事故と被告の受傷・損害との間の因果関係は否認し、その余は認める。仮りに因果関係ありとしても、それは確定した刑事判決の認める入院加療四か月の治療を要した傷害と損害の限度においてである。

即ち、原告は、本件事故以前に二度にわたり同種交通事故に遭遇している。一度目は昭和五〇年九月四日鯖江市鳥羽町地籍において、信号待ちの一時停車中普通乗用自動車に追突されて頸椎捻挫の傷害を負い、二度目は昭和五二年五月三〇日武生市四郎丸町地籍において停車し、自車後部路上に立止つていた際、普通乗用自動車が自車に衝突し、そのため約六・七メートル跳ねとばされ全身打撲傷、外傷性頸椎症、腰椎々間板損傷の傷害を受け、同年一〇月二二日症状固定し、自賠責保険後遺障害等級一二級一二号の後遺症の認定を受け、その後本件事故直前の昭和五三年三月一七日まで治療を受けていた。従つて本件事故後の治療はそれ以前の前記二度の事故による後遺症の治療というべく、本件事故との因果関係はない。

4  同4の事実はすべて否認する。

5  同5の事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生及び被告の責任

1  昭和五三年四月三日午後八時一〇分ころ、鯖江市有定町二丁目鯖江大橋東詰交差点手前で信号待ちのため一時停止中の原告運転の普通乗用自動車後部に、被告が酒に酔つて普通乗用自動車を運転し、その前部を追突させたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第六八ないし第七〇号証、原本の存在と成立に争いのない乙第七一号証によると、被告は時速約四〇キロメートルで進行し、深酔状態のため直ちに運転を中止すべきであるのに、酒勢にかられて運転を継続した過失により原告車の後方約七・一メートルに迫つて初めてこれに気づき、ハンドルを右に切つたのみで(ブレーキ効果のない状態で)原告車右後部に自車左前部を衝突させたことが認められ、右認定に反する被告本人尋問の結果は信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右認定の事実によれば、被告は不法行為者として原告に対し、後記相当因果関係の存する限度における原告の蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

二  原告の受傷及び本件事故との因果関係

証人廣瀬俊男の証言及びこれによつて真正に成立したものと認められる甲第二号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第二四号証ないし第二七号証、第三三号証、第四二号証ないし第四五号証、第六四号証、第七一号証、成立に争いのない乙第二二号証、第五五号証、第五七号証、第六三号証、第六八号証ないし第七〇号証、原告本人尋問の結果を総合すると、次の各事実が認められる。

1  原告は、本件事故当日原告の住居の近所にある廣瀬病院で外傷性頸椎症及び腰椎捻挫の診断を受けたが、頸部から頭部にかけての痛みを訴え、首の前・後屈の制限が大きく、しんせん(ふるえ)が多少みられる状態であり、翌日になると腰部・頭(特に後頭)部、頸部の痛み、吐気・不眠の訴があり、椎間孔狭窄、前・後屈の極度の制限が認められ、症状が極度に増悪したため昭和五三年四月五日同病院に入院した。

その後の原告の同病院における治療経過は次のとおりである。

(イ)  昭53・4・5~8・18 入院 一三六日間

(ロ)  昭53・8・19~9・30 通院 四三日毎日実通院

(ハ)  昭53・10・1~12・18 通院 七九日中五五日実通院

(ニ)  昭54・1・9 通院

昭和54・2・21 通院} 昭和五四年に入つての実通院数二日

そして、少くとも昭和五三年一二月三一日までには症状固定の状態、即ち、後記自賠法施行令二条別表後遺障害等級表(以下単に等級表という)一二級程度の後遺症状を残して、以後改善の余地のみられない状態になつたと考えられ、治療もこの段階で打切られている。

2  ところで、原告は、本件事故に遭遇する前に二度にわたつて本件と類似した交通事故に会い、類似の傷害を受けている。

3  即ち、まず、昭和五〇年九月四日午後〇時四五分ごろ、原告が鯖江市鳥羽町地籍国道八号線路上で信号待ちのため一時停止中、後方から進行して来た自動車に追突され(以下前々事故という)、鯖江市内の谷川医院において頸椎捻挫の診断を受け、頭・頸部の自発痛、軽度の前・後屈制限、椎間孔の軽度の変形等の症状に対し、同医院において次のとおりの治療を受けた。

(イ)  昭50・9・4~9・12 通院

(ロ)  昭50・9・13~11・12 入院 六一日間

(ハ)  昭50・11・13~昭51・6・30 通院((イ)・(ハ)合わせて二四〇日中一二九日実通院)

なお、治療打切当時の後遺症状として頸椎後屈制限・頸椎神経根圧迫症状がみられたが、等級表による後遺障害の認定は受けるに至つていない。

4  次に、右治療打切の一一か月後である昭和五二年五月三〇日午後五時五五分ごろ、武生市四郎丸町二七字一四番地先路上において、原告が道路左側に駐車させた自車後部トランク内を確認し、ふたを操作中、自車前部に普通乗用自動車が時速約五〇キロメートルで激突し、その衝撃で原告が約六・七メートル道路脇にはねとばされ、前記廣瀬病院で全身打撲傷(特に腰・背部・頭・頸部)、外傷性頸椎症、腰椎々間板症の診断を受ける傷害を蒙り、当時いわゆるむちうち症状の主訴のほか、頸椎については前・後屈・左右屈・旋回とも高度に制限され、腰椎も前後屈・左右屈とも制限があり、椎間板狭少、椎体骨端部骨折が確認された。

原告の前記廣瀬病院における右傷害の治療経過は次のとおりである。

(イ)  昭52・6・1~昭52・10・3 入院一二五日間(うち、6・1~7・20までの五〇日間は要付添看護)

(ロ)  昭52・10・4~昭53・3・17 通院一六五日中六三日実通院

(ハ)  昭52・10・22 症状固定

なお右症状固定後の原告の通院実日数は昭和五二年一〇月中は一〇日(毎日)、一一月中は一三日、一二月中は一一日、昭和五三年一月ないし三月中は各四日間で合計四六日間であつた。

5  右症状固定時の原告の症状は頭・頸・腰の各部についての不定愁訴、頸部・背椎の著しい運動機能障害のため腰椎コルセツトが半恒久的に必要とされ、軽易な労務にしか就くことができず、局所に頑固な神経症状を残すものとして、等級表一二級一二号の後遺障害の認定を受けた。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

6  右認定の前々事故・前事故と本件事故の各事故態様、原告の受傷部位、内容、程度、治療経過等を相互に比較検討すると、事故態様と原告の受傷部位、内容がいずれも相当に類似したものであること、前々事故の治療打切後一一か月後に前事故に会い更に前事故の治療打切後一七日目に本件事故に遭遇したという経過にみられる如く、事故相互に時間的接着性があること、前事故による原告の受傷と後遺症がともにむちうち損傷としてはかなり重傷に属するものであつたことの各特徴が認められ、これに等級表一二級の労働能力喪失率の一応の目安は一四パーセント程度、その継続期間は一応重いものでも事故発生日から四年を超えないと通念されていることは公知の事実であることなどを合わせ考えると、本件事故前の事故による受傷(主としては前事故によるそれ)が本件事故に基く原告の負傷に対し、その基盤的ないし拡大的要素として影響を与えていることは前示甲第二号証の記載文言に拘らず容易に推測することができる。

そして、このような場合、被告が本件事故前の各事故により生じている損害についてまで責任を負わねばならない道理はないと考えられるところ、前認定の各事実及び一切の事情を斟酌すると、原告の本件事故後の傷害のうち、少くとも一割五分は本件事故と相当因果関係のないものとするのを相当と判断する。

三  損害額

1  治療費 金一三〇万〇九八五円

証人廣瀬俊男の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第三号証の一ないし五、原告本人尋問の結果及びこれによつて真正に成立したものと認められる甲第一七号証の一ないし八を総合すれば、原告が前記廣瀬病院に対し、本件事故による傷害の治療費として合計金一五三万〇五七一円を支払つたことが認められるので、前示二、6の理由により、その八割五分である金一三〇万〇九八五円に限り、本件事故と相当因果関係ある損害と認める。

2  入院雑費 金五万七八〇〇円

入院期間一三六日につき、一日金五〇〇円の割合による入院雑費は相当なものと考えられるところ、前同理由によりその八割五分である合計金五万七八〇〇円を本件事故と相当因果関係ある損害と認める。

3  休業損害 金三四六万三五七八円

成立に争いのない甲第一九号証の一、証人京藤一雄の証言及びこれによつて真正に成立したものと認められる甲第四号証、第六号証、第一九号証の二(但し、いずれも後記認定に反する限度で信用しない。)、原告本人尋問の結果(但し、後記信用しない部分を除く)及びこれによつて真正に成立したものと認められる甲第七号証の一ないし二〇、第八号証の一ないし八、第九号証の一ないし六、第一〇号証の一、二、第一一号証の一ないし七三、第一二号証の三二の一、二、第一二号証の三三ないし三五、第一二号証の三六の一、二、第一二号証の三七、第一三号証の一ないし一八、第一六号証の一、二、第一九号証の三、四、第二一号証の一ないし一五、第二二号証の一ないし一〇、第二三号証の一ないし六を総合すると、原告は昭和三八年ごろから、ミシン・編機のセールスを始め、昭和四八年一二月ごろから独立して右のセールス業を営んでいるものであるが、外販を主とし、店頭販売を従とする営業経態で、昭和五二年一月から四月までの一二〇日間、一日平均金一万四九二六円を下まわらない純益があつたものと推認され、右認定に反する原告本人尋問の結果及び前掲各関係証拠は信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない(前顕甲第六号証の売上原価欄中の仕入金額から、前顕甲第一九号証の四及び第二三号証の一ないし六によつて認められる電気製品の自家消費分を控除すること、甲第六号証の売上金額に前掲甲第一九号証の三、第二二号証の一ないし一〇によつて認められる預り機出荷分合計金額を加算し、前掲甲第一九号証の二の各欄の如く修正することは一応相当と認められるが、売上金額を右の如く修正するのであれば、それに対応し、甲第一九号証の二の仕入金額にも預り機出荷分の仕入価額合計額を加算するのが相当である。なお昭和五二年一月から四月までの経費としては甲第四号証のそれが最も実際に近似したものと認められる。)。ところで、原告は前示のとおり昭和五三年四月三日から同年一二月三一日まで二七三日間稼働することができなかつたものと認められるから、原告は右期間に金四〇七万四七九八円の得べかりし利益を喪失したことになるが、前示二、6の理由によりその八割五分である金三四六万三五七八円が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

4  慰藉料 金九〇万円

前示認定の諸般の事情を総合考慮すると、原告の慰藉料は金九〇万円と認めるのが相当である。

5  損益相殺

原告が自賠責保険から金一〇〇万円の保険金の支払を受けていることは当事者間に争いがない。

6  弁護士費用

原告らが本件損害賠償の任意支払を受けることができず、本訴訟の提起追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであり、本事案の内容、審理経過、許容額等に照らし、弁護士費用は金三五万円をもつて相当とする。

四  結論

以上のとおりであるから、原告の被告に対する本訴請求は、右損害合計金六〇七万二三六三円から、右保険金額を控除した金五〇七万二三六三円及び弁護士費用を除く内金四七二万二三六三円については本件事故発生の日の翌日である昭和五三年四月四日から、内金三五万円については本訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和五三年八月四日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを正当として認容し、その余は失当として棄却する。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を仮執行の宣言について同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 柄多貞介)

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